この「ふたご研究シリーズ」の監修者で自らも多くの章を執筆されている安藤寿康先生のお名前を初めて聞いたのは、たぶん2007年か2008年ごろ、とある心理学専門書の編集会議の場であったと思う。先生方と新企画の構成案や執筆候補者について話し合っていたところ、「その内容だったら、慶應のあんどう・じゅこうさんがいいんじゃない?」と一人の先生がおっしゃった。「ほら、ふたご研究のさ、知らない?」。私も他の先生方も、きょとんとしていた。日本にふたご研究(行動遺伝学)を専門とする研究者は多くない。何より研究のスタートとなるふたごのデータを得ること自体が簡単ではない。研究を継続するにも、資金の獲得や体制の構築などで長く地道な努力を要する。学内で学生たちに声をかけて数時間の実験・調査に付き合ってもらい、それですぐ論文が書けるようなものではない。

安藤先生との交流はその心理学専門書から始まり、その後、安藤先生は『遺伝子の不都合な真実』(ちくま新書)、『日本人の9割が知らない遺伝の真実』(SB新書)、『なぜヒトは学ぶのか』(講談社現代新書)と一般向けの新書をコンスタントに書かれ、創元社からも『「心は遺伝する」とどうして言えるのか』を刊行することができ、ふたご研究の成果はずいぶんと知られるようになったと思う。そして、出会った当初からお願いしていた、ふたご研究の全貌を主要なテーマごとに紹介する専門書シリーズも、こうして第1巻を刊行できる運びとなった。現在、第2巻『パーソナリティ』、第3巻『家庭環境と行動発達』も進行中である。

「生まれか育ちか」「遺伝か環境か」という問題は古くて新しいもので、ふたご研究はこれに一定の確かなエビデンスを提供することができる。教育心理学や社会心理学、発達心理学の文脈で取り上げられることが多いが、近年は格差社会や貧困の問題への関心から経済学や社会学などの注目も集めている。もちろん生物学や医学とも深いつながりがある。このシリーズは、専門書ではあるものの、順を追って丁寧に読み進めていけば、ふたご研究の専門家でなくても十分理解できる記述となっている(それを目指した)。ふたご研究の知見を自身の研究に生かしてみようという研究者の方々、安藤先生の新書を読んでより専門的な議論に触れたいと思われた方々、ぜひ多くの方々に手に取っていただければと思う。人間の身体的特徴だけでなく、知能や学業成績、性格、精神疾患、攻撃性など“心”もまた遺伝する。これはふたご研究が一貫して示してきた紛れもない事実である。大事なのは、その事実が意味するところをしっかり理解した上で、そこから先をどう考えるか、である。
(TK)